ぱあん、と銃声が響いた。

それは彼女の手の中からなのか、僕の手の中からなのかはわからない。

わからないくらい同時だったということだと思う。

僕が今わかることと言えば

放たれた それは、僕に当たらなかった。

一瞬のことだったけれど、それだけはわかる。

何故ならこうして僕の思考は回り続けていて、引きつるような痛みも、天からの迎えとやらもやっては来ないからだ。


(彼女は 彼女はどうなっただろうか。)


それを確かめるためにはまず目を開けなければならない。

驚くほど重たい瞼を持ち上げて緩慢な動きで彼女の方を見遣る。

すると彼女も同じように僕の方を見ていた。


どうやら、どちらの弾も当たらなかったらしい。



何か言おうと口を開いたけど、喉がヒューと鳴っただけで音にはならずに消えてしまった。

恐怖から、いやそれとも安堵からだろうか。恐らく両方だと思う。


最初に静寂を破ったのは彼女だった。


「下手くそね。」


彼女がそう言ったところで、僕はやっと拳銃を下ろすことが出来た。

女の人というのは大体が男よりも強く出来ているものだ。


「君だって、同じようなものじゃないか。」


漸く戻ってきた声で負け惜しみのように言い返すと、彼女は強かに

「生きてるっていいわね。」と笑った。


( 心中に失敗した恋人のお話 )

2008.08 / 拳銃と彼女